週1練習が「待ち遠しくて仕方ない」 受け身な子も元気に…女子小学生が生む“瞬時の団結力”

文:田宮三知 / Michi Tamiya

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“勝つ野球”と“楽しい野球”の共存が可能と実証…オール葛飾アイリス

 8月に岡山で開催された全国大会「NPBガールズトーナメント2025」に2年ぶりの出場を果たした、東京都葛飾区の女子小学生選抜チーム「オール葛飾アイリス」は、小学2年生から6年生までの幅広いメンバーで構成されている。普段は所属チームでの練習が主流のため、活動日は限定的だが、保護者や関係者から「その日が待ち遠しくて仕方がない選手ばかり」と評判だ。“一致団結”をモットーに指導をする、チームを率いて5年目の西村光輝監督に女子選手育成の秘訣を聞いた。

 オール葛飾アイリスは、東京都葛飾区少年軟式野球連盟に所属する選抜チームで、現在、同区在住を中心に21人の女子選手が所属している。練習は基本土曜の午後のみ。主に堀切橋少年野球場や柴又少年野球場などで活動している。

 2021年から監督を務める西村さんは、長女が小学3年時に所属したのをきっかけに、女子選抜チームの存在を知ったという。「はじめはコーチとして参画していましたが、男子とはまた違う野球の魅力に、のめりこんでいきました」と語る。

 チームの方針は前任監督の時代から変わらず、「楽しく野球をすること」。そして選抜チームという形態から「所属チームの考え方を尊重し、過度な技術への介入は避けること」を徹底しているという。

「ボールの投げ方や打ち方、といった細かい技術は所属チームの指導者から教えてもらっているので、僕らは簡単なアドバイスをするくらい。ただ、走塁に関しては力を入れて指導しています。やはり女子選手の特性を活かせますし、細かい動き、判断力のある選手のほうが嫌なバッター、ランナーになれますから。所属チームでの活躍にも反映されるのではないでしょうか」

 実際にオール葛飾アイリスは、読売巨人軍主催のトーナメント大会「シスタージャビットカップ」のベースランニング大会でも2023年、2024年と連覇を遂げている。

 ほかにも重視するのが「カバーリング」だ。「うちが特別だとは思いませんが、ノックであれば、そのポジションだけに打つノックは絶対にしません。実際の場面を想定し、カバーリングの大切さをしつこく伝えています」。

 男子選手は、低年齢ほど個人の成績を重視する傾向がある。しかし女子選手は、どの年齢でも、チームにおける貢献度の高さにプライオリティ(優先順位)を感じるタイプが多い。そのため、ひとたび好プレーや、誰かをフォローする気持ちから生まれたプレーが出ると相乗効果が起こり、“半端のない団結力”が瞬時に発揮されるという。1プレーで流れが大きく変わることの多い女子野球ならではの面白さと難しさであり、いかにそこまでチームを1つにまとめ上げていくかが、勝敗を分けるともいえるのだろう。

選手と監督の信頼関係がOne Teamには必要不可欠

オール葛飾アイリスの西村光輝監督【写真:高橋幸司】

 オール葛飾アイリスの選手は、明るくポジティブなタイプが多い印象だ。しかし、最初からこの雰囲気や“One Team”の結束力があったわけではない。「どの子も入団時は、静かに指示を待っているような受け身姿勢の場合が多いですね」。

 そこから選手を積極的にさせるため、西村監督自身はもちろん、ともに指導にあたる浅島勝晃、矢田部俊英の両コーチも練習中から心掛けているのが、「失敗は当たり前、ミスしても頭ごなしに怒らない」ことだ。

「成功は全部選手のおかげで、失敗はすべて僕のせいです(笑)。選手自身が、積極的にやってみよう、次の塁を狙ってみよう、あの1球を打って、捕ってみようと思えるように、ポンと背中を押すのが、基本的には自分たちの役割だと思っています」

 選抜チームだけに、過ごす時間が短い分、チーム力の醸成を期待するのが難しい。では、限られた活動時間でどのように各選手の特徴をつかみ、信頼関係を構築しているのだろうか。西村監督は、「たいしたことは何もしていない」と謙遜するが、選手の所属チームでの試合があれば、時間が許す限り足を運んでその様子を見学し、監督との交流も積極的に行っている。また、保護者との対話や、チームの活動をSNSで拡散するなど情報収集・発信にも余念がない。

「選手には一人ひとり特徴があり、長所も、もちろん短所もあります。女子同士の中と、男子に交じった所属チーム内とは違った顔もありますしね。そこは知っておきたい部分でもあると思っています」

 また、西村監督は、試合の前後、そして試合中でも積極的に「この場面ではこうしてほしい」と選手を尊重しながら対話するようにしている。「誰かに支えられている、失敗しても全部受け止めてくれる人がいれば、自信を持ってトライできると思うし、仮に失敗したとしても、それが悔しさになって、自分で勝手に努力していく。大人が何か『これをやってきなさい』と指示するのではなく、課題を自分で見つけてくれる選手のほうが強いですよね」。

所属チームで苦しいときに「切り替えや元気をもらえる場所になれば」

週末の活動日が「待ち遠しい」という選手ばかりだ【写真:高橋幸司】

 公式大会は、6年生だけでなく、4年生も2、3人がスタメン出場する。選手のグラブには、チームは1つという意味を込め、“一致団結”の言葉と背番号が刻まれたミニベルトが光る。また、髪にチームカラーの紫色のリボンをつけ、腕にはリストバンドを装着する選手もおり、これらはいずれも監督からの贈り物だという。

「所属チームで苦しいときに、切り替えや元気をもらえる場所になってくれれば」と西村監督は、選抜チームの“存在意義”を語る。

「葛飾区の連盟も、できるだけ選抜チームと(所属チームの)公式戦の日程がかぶらないように調整してくれるなど、全面的に協力してくれています。今後はお隣の江戸川区さんのように、もっと女子選手の人数が増えて、複数地区の各女子チームから選手を選抜する代表チームに育ってくれたらうれしいですね」

 取材中も、卒団生や保護者がふらりと立ち寄ったり、連絡が届いたりする場面もあり、多くの関係者が、単身赴任先の広島から毎週野球のために帰京する熱血監督を慕う様子が垣間見られた。葛飾区の花である、花しょうぶのような凛とした強さと、団結力で戦うオール葛飾アイリスの活動に、これからも期待したい。

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