覚悟の連盟脱退から2度の全国V 北海道の強豪が実践…野球に特化する“超効率”練習

今夏のマクドナルド・トーナメントで16強…札幌の「東16丁目フリッパーズ」
雪に閉ざされる冬、日没の早い春秋――。札幌の学童軟式野球チーム「東16丁目フリッパーズ」は、北海道の地理的ハンデを乗り越え、全国有数の強豪になった。2017年には“小学生の甲子園”「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」を制し、今年も16強入り。原動力は、21歳でチームを引き継いだ笹谷武志監督が25年間にわたり磨き上げてきた独自の練習法と、地域全体を巻き込む運営の工夫にある。
平日の練習は午後4時30分に始まる。午後5時前後に日没を迎えるこの時期は、ランニングや柔軟体操といったアップを省き、いきなり打撃練習からスタートする。打者は思い切りバットを振り、守る側は打球を追いかける。これ自体がウオーミングアップの役割を果たす。
「子どもたちは学校でドッジボールなどをして十分に動いていますから」と笹谷監督。効率を重視する一方で、子どもの気持ちにも配慮する。「一番好きなのはバッティング。走ることから始めたら練習に行きたくなくなるでしょう? 学童期は学校での運動を活用し、練習時間はできるだけ野球に充てたいと考えています」と説明する。
打撃練習に続くキャッチボールも独特だ。単に投球と捕球を繰り返すのではなく、さまざまな動きが組み込まれている。両膝をついて投げる、肩を回してから投げる、うつ伏せから立ち上がって投げる――。肩や股関節を意識させ、怪我の予防と技術向上を同時に図るメニューは100種類以上に及ぶ。その日のテーマに合わせて30種類ほどを選んで実施する。
あたりが暗くなると、練習を見守っていた保護者が組み立て式の簡易照明8台を設置し、内野を明るく照らす。2組に分かれた選手たちは、次々に飛んでくるノックの打球を走りながらさばき、指定された方向へ送球。汗びっしょりになりながら、打球への入り方を学び、球際の強さを養う。同時に、ノックは肩づくりの重要な練習でもある。
このように、笹谷監督が考える練習メニューには、複数の目的を同時に担う工夫がある。すべては「子どもたちにうまくなってもらいたい」という情熱と25年間の試行錯誤から生まれた。
クラウドファンディングを活用して待望の室内練習場も

東16丁目フリッパーズ出身の笹谷監督は、大学時代に恩師である初代監督に請われてコーチとなり、2001年に21歳の若さで監督に就任。「生まれて初めて人から頼まれて、責任感が生まれました。チームを潰すわけにはいかない。強くしたい。やるからにはとことんやろう」。そう覚悟を決め、平日夕方の練習に立ち会うため早朝は市場、夜はカラオケ店で働いた。現在は保育園の園長として仕事と両立しながら指導を続ける。
昔は強豪とは程遠かった。全国大会の出場実績は1992年の1度だけ。監督就任当初も、全道大会に時折顔を出す程度だった。大きな転機は2012年、札幌市少年軟式野球連盟からの脱退だ。2009年にマクドナルド・トーナメントで8強入りを果たすとエリア外からの入団希望者が増えたが、当時同連盟には「地元のチーム以外に移籍する場合は1年間出場停止」という厳しい規定があったという。さらに、全国大会の予選と連盟の試合が重なって棄権すると、ペナルティを課された。
向上心旺盛な子どもを受け入れられない歯がゆさと、全国大会を最優先にできないもどかしさ。2つのジレンマを抱え、笹谷監督は95%が加盟する有力団体からの脱退を決めた。同時期に誕生した北海道チャンピオンシップ協会の立ち上げに関わり、地域の枠を越えて全道規模で試合を組み、道外の大会に選抜チームを編成して参加するなど活動の幅を広げていった。
「脱退してから、他の区からも志の高い親御さんが集まり、意識が高まりました」。全国制覇を掲げるチームの土台がここで固まった。2012年以降はマクドナルド・トーナメントに7度、高野山旗全国学童軟式野球大会に10度出場。両大会でそれぞれ1度ずつ全国制覇を達成している。
2023年1月には待望の室内練習場(15メートル×32メートル)が完成。選手の親族から無償で借り受けた倉庫に、クラウドファンディングで集まった180万円で人工芝とネットを整備した。それまで冬場は週2回中学硬式チームの施設を借りていたが、毎日練習できる環境が整った。各学年12人を上限に受け入れ、曜日ごとに練習日を分けて活動している。
新チームが動き出した現在は、笹谷イズムを理解した6年生が5年生をサポートし、指導役も務める。「きついゲキが飛ぶこともあり、監督が4人も5人もいるような感じ」と笹谷監督は笑う。上級生から下級生へ、伝統をつなぎながら、3度目の頂点を狙う。
北海道から2度の全国制覇…東16丁目フリッパーズの指導・練習法を紹介!
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