
平日のフリー打撃は選抜制…甲斐JBCは序列と競争でチーム力アップ
競争がなければ、個の成長もチーム力の向上も期待できない。今夏の「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」に出場した山梨の甲斐JBC(ジュニアベースボールクラブ)では、小学3年生を対象にした大会では1回戦負けする戦力を、高学年になる頃には全国大会出場のレベルまで高めている。根本にあるのは「チーム内競争」。他人と競わせることを避ける時代だからこそ、“平等”の考え方に一石を投じる。
甲斐JBCは山梨を代表する少年野球チームと言っても異論はないだろう。近年は県内で安定した成績を残し、今夏は“小学生の甲子園”と呼ばれる「マクドナルド・トーナメント」に出場を果たした。
実は、甲斐JBCはチーム結成時から強いわけではない。県内では小学3年生を対象にした大会があり、現在の6年生は2回戦で負けている。新チームとして結果を残している5年生や、マクドナルド・トーナメント県予選でベスト4だった現在の中学1年生の代は、1回戦で敗退。小学3年生時点では、上位に進出していないのだ。
そこから数年で県内トップレベルのチームに変貌している理由は、練習から序列をつける厳しいチーム内競争にある。例えば、平日の練習でフリー打撃ができるのは、試合で出場機会を与えられる選手だけ。しかも、1組目、2組目、3組目と順番が下がるほど、打撃の時間が短くなる。練習内容に差をつける理由を中込監督が説明する。
「平日は練習時間が限られるため、全員がフリー打撃をする時間がありません。チームの練習は指導を受ける場であると同時に、指導者に日頃の頑張りを見せる機会でもあります。フリー打撃の1組目に呼ばれるのは、現時点で最も評価されている選手です。全員が1組目を目指してチーム内で競争しないと、個人の能力もチームの力も上がりません」
フリー打撃では守備に注目…生きた打球で上達

中込監督がフリー打撃のメンバーや順番を決める基準は、試合の結果だけではない。土日の練習や試合における打撃の内容、練習への取り組み方、さらにフリー打撃中の守備も重要な判断要素となる。甲斐JBCではフリー打撃中、打席に入れない選手は守備に就く。それは単なる球拾いではなく、試合のように1球1球に準備して、アウトカウントや走者を想定して動く。この守備練習のプレーを見て、指揮官はフリー打撃のメンバーに指名するケースもあるという。
「守備が上達した選手は守備固めで試合に起用できます。そうすると、試合終盤で打席が回ってくる可能性もあるため、打撃練習をさせようと思います。守備を評価して打撃練習をさせるわけです。新しい選手が打撃練習に入ったり、1組目だった選手が2組目になったりすると、監督の評価が変わったと選手たちが気付いて危機感や競争心が生まれます」
チームでの評価を如実に表すフリー打撃は、思わぬ効果もあった。下級生は基本的に打席に立てず、ひたすら守備練習の時間となる。飛んでくるのは上級生、しかもレギュラークラスの打球。ノックと違って、いつ、どんな打球が飛んでくるのか分からない。集中力や緊張感を持って守っていると、自然と守備力が強化された。中込監督が言う。
「ノックを1000球受けるより、生きた打球を100球捕った方が絶対に上手くなると思っています。私がフリー打撃で見ているのは打者4割、守備6割くらいの比率です。この時間の守備を非常に大切にしています。少しでも気を抜いたプレーをした選手には、その動きを試合でもやるのか? と指摘します。生きた球で練習しているうちに守備力が向上し、小学3年生の時に弱かったチームが高学年になると勝てるようになっています」
保護者からは「なぜ、平等に練習させないのか」と指摘されたこともあった。その時、指揮官は保護者会を開いて、“平等”について自らの考え方を伝えた。
「平等とは一見すごく良い言葉です。でも、平等は組織を発展させないと保護者に伝えました。全員を平等にしたら、頑張る選手が減っていきます。努力してもしなくても、同じ練習ができるわけですから。努力した選手が成果を出して、さらに上を目指す仕組みをつくる必要があると保護者に説明しました」
保護者とは一線を画す…私情をはさまずに選手起用

甲斐JBCは「全国で勝てるチームづくり」をコンセプトに掲げている。県内でトップに立ち、県外の強豪にも勝利するには、厳しい戦いを制する必要がある。そのためには、チーム内競争が避けられず、チーム内の切磋琢磨が不可欠だと指揮官は考えている。
「もちろん、不満を持つ保護者の気持ちは分かります。自分の命よりも大切な子どもが試合に出るチャンスをもらえず、練習内容もレギュラーと違いがあれば、納得できない部分はあるはず。私もそうですが、子どものことになると、親は感情的になる傾向がありますから」
中込監督が選手に注ぐ愛情に不平等はない。しかし、レギュラーの人数が決まっている以上、平等に起用するのは不可能だ。指揮官が評価するのはグラウンド内で見る選手だけ。ただ、特定の選手を優遇していると誤解されないよう、保護者とは一定の距離を保つ。「小学6年生を中心としたトップチームの監督になってからは、保護者と飲みに行くなど個人的な付き合いは避けています。一切の私情をはさまず、選手を評価したいですから」と中込監督。チーム内競争を勝ち抜いた選手を起用する“平等”な仕組みが、個もチームも成長させる。
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