「良いケンカはどんどんせいや!」 ノーサインの手腕突出…岡山にいる“最先端監督”の魅力

岡山・里庄町少年野球クラブ…“提案と共感”の声掛けで3年連続全国出場を目指す
少年野球界の最先端を走る指導者が、岡山にいる。里庄町(さとしょうちょう)少年野球クラブの小野正太郎監督は、“提案”や“共感”を主とするコーチングを実らせて、2年連続で全国大会に出場中。選手たちには自らの意思とアイデアによるチャレンジを促し、「ノーサイン野球」を実現している。その指導哲学とは、そして、“なるほど納得”の声掛けとは――。
◇◇◇◇◇◇◇
選手に求めているのは、服従や結果ではなく、自らのアイデアや意思を伴うチャレンジ。したがって、声掛けは命令や指摘ではなく、多くが提案か、共感になる。競技人口の激減が伝えられる野球界の未来を照らしていくのは、こういう指導者と、その教え子たちになるだろう。
岡山県の西南部、里庄町を拠点とする少年野球チーム「里庄町少年野球クラブ」。創立は1992年で、「小学生の甲子園」全日本学童大会マクドナルド・トーナメントには4回出場している。今年も6月の岡山大会を制すれば、3年連続の全国出場となる。
率いる小野正太郎監督は、就任9年目。冒頭のようなコーチングを「理想論」として語る指導者も増えつつあるが、日々の現場でそれを実践し、結果としてチームを全国舞台へ導いている点において、小野監督の手腕は突出している。
「ウチでは『総合練習』という位置付けで、高学年は練習試合が活動のメイン。野球は相手があるスポーツなので、相手をコントロールするためにどうするか、という部分が難しくもあり、楽しくもある。選手はまたそのために、自分で考えたり、工夫したり、相談したりする」
こう語る小野監督は、アマ野球の指導者の大半が試合中に使っているだろうフレーズを、まったくといっていいほど口にしない。「声を出せ!」「集中しろ!」「自信もって!」「積極的に!」「気持ちで負けるな!」「考えろ!」……。目的や方法があいまいな、これらの常套句を言わない代わりに、短くも具体的な提案をしている。
「『監督はたいへんじゃろ?』と言われるけど、ボクはぜんぜん楽」

たとえば、立ち上がりの守備では全体へ「予測の一歩な!」と発する。選手が「予測」をするには、打者の体格やスイング、捕手のミットなどを必然的に見る(=集中する)こととなり、その観察を根拠に立ち位置を変えていく。そうして自ら考えてポジションをとれば、打球処理への意欲(=積極性)も増し、インパクトに合わせての「一歩」を忘れることもまずない。
結果、守備範囲が広がったり、ファインプレーの確率も上がる。もちろん、個々のポジショニングが裏目に出ることもあるが、頭ごなしに叱責するような愚を犯すはずもない。昨年秋のローカル大会の試合前、新チームの当時5年生たちに対して、小野監督は岡山弁でこう説いていた。
「オレには『はい!』という返事をせんでな! 返事をせんでも顔を見れば、わかるけ。その代わりに、結果を出してほしい。その『結果』というのは、ヒットを打つとか、ファインプレーとか、そういうのと違う。自分でやろうとした内容とか、考えのことや。そこが見えれば、失敗してもぜんぜん構わんけ」
チームに根付いているのは、選手同士が判断や選択をして試合を運ぶノーサイン野球。小野監督からは、個々へ事後のフォローはあってもサインや命令はない。そして選手のトライにその場で共感を伝えたり、後から意図を確認して驚いたり。判断の根拠となる、野球知識やゲーム性の理解が薄いと見れば、すぐさま教え込む。
選手も楽しそうだが、指揮官はもっと楽しそう。本人もそれを全面的に肯定する。
「そうなんですよね、ホンマに楽しいです。『監督はたいへんじゃろ?』とよく言われるんですけど、ぜんぜんボクは楽なんじゃけどなぁ。そのあたりの感覚は、他の監督さんたちと違うのかなと思います」
指導の基本は「教える」ではなく「伝える」

ノーサイン野球も毎年のゴールが明確に設定されており、6月の全国予選までの完成が理想。その道中では当然、失敗も成功もあるので、指揮官はいちいち感情的にならない。そして失敗した選手には、わずかな進歩や到達度を示唆して勇気を与えたり、一段上の理想と現在地を示した上で、そこを埋めるヒントを与えたり。「良いケンカはどんどんせいや!」と、作戦面においては選手同士の意見の衝突も止めに入らない。
一方で下級生たちには、設定しているゴールを早い段階から教えつつ、「自分たちで考えてどんどん試す」ことを促している。仏のような柔和な笑顔が印象的だが、時にはあえて声も荒げることもあるそうだ。
「教えたのにできないとか、態度が悪いとか、そういうことではぜんぜん。でも、いつまでも意思や意図が見えないプレーを繰り返したり、何も考えずに惰性でなんとなくやり続けているような子には厳しいですよ。伝え方は個々の性格にもよりますけど、怒鳴るくらいが効く子も中にはいます」
選手への声掛けに何よりも必要なのは、個々の性格や小さな変化でも常に把握すること。そのため、プレー以外でも一人ひとりを機微までよく観察しており、理解に努めている姿がある。
「指導も基本は『教える』ではなく、『伝える』ですね。選手が思った通りに動いてくれないのは、自分の伝え方が悪いから。だから怒るのではなくて、ちゃんと伝わるように、また話せばいいと思っています」
こんな指揮官だが聞いてみると、実は就任から3年ほどは、体罰も辞さない「ド昭和の指導者」だったという。その様変わりに共鳴し、支えてきた藤原俊文コーチは「いまのほうが自然体では」と指摘する
「変わる前の小野監督は、逆に無理をして監督像をつくりあげているイメージでした。それが素に戻っただけで、いまのほうが自然だと思います。子どもも野球もホントに好きなんだというのは、当初から近くにいて感じています」(同コーチ)
40代になっても、本人にその気と人間性が伴えば、ここまで変わることができる。そういう意味でも、先駆的な成功者である。
○大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」でロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。
https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know
少年野球の現場を熟知するコーチが参加…無料登録で指導・育成動画250本以上が見放題
野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」(ターニングポイント)では、無料登録だけでも250本以上の指導・育成動画が見放題。First-Pitchと連動し、小・中学生の育成年代を熟知する指導者や、元プロ野球選手、トップ選手を育成した指導者が、最先端の理論などをもとにした、合理的かつ確実に上達する独自の練習法・考え方を紹介しています。
専門家70人以上が参戦「TURNING POINT」とは?
TURNING POINTへの無料登録はこちら