
大学先生が提唱…野球に役立つ5種類の“鬼ごっこ”で磨く多様なステップワーク
少年野球からプロ野球まで幅広く指導している東京農業大学の勝亦陽一教授は、野球に必要な動きの習得のために、子どもたちに向けて「鬼ごっこ」を提唱している。とはいえ、単に鬼を決めて逃げ回るだけでは普通の遊びでしかない。トレーニング要素を加えるには、どのような方法があるのだろうか。2月中旬、勝亦教授が、東京経済大・押川智貴特任講師と共に、都内の少年軟式野球チームに対して実施した出張指導に密着した。
鬼ごっこ、かくれんぼ、缶蹴りなどはかつて、遊びの定番だった。しかし、住宅地に広い公園が少なくなり、子どもが道路を駆け回ることを交通事情が許さなくなった。そんな今だからこそ、少年野球の練習に「鬼ごっこ」を導入する意義があると、勝亦教授は説く。
「鬼ごっこの優れた点は、第一に運動量が多いことです。子どもたちは、イヤイヤやらされるトレーニングとは違い、楽しみながらノンストップで動いています。質においても、急停止、急な方向転換、カーブというように、いろいろなステップワークが含まれます」と力を込める。
今回指導したのは、野球につながる要素を取り入れながら、5つの段階を踏んで行う鬼ごっこ。「じゃんけん鬼」「ボール当て鬼」「ライン鬼」「ダイヤ鬼」、そして究極の形とも言える「投げダイヤ鬼」である。
まず「じゃんけん鬼」は、2人1組になり、本塁・一塁・二塁・三塁に囲まれたダイヤモンド内を範囲として、じゃんけんで勝った方が逃げ、負けた方が“鬼”になって追いかける。鬼が相手をタッチしたら、じゃんけんをやり直す。走ると周りの子どもと交錯する危険があるので、早歩き以下のスピードで行うルールとするのがお勧めだ。
じゃんけん鬼の進化形が「ボール当て鬼」。参加者全員がボールを1個ずつ持ち、同じくダイヤモンド内を範囲として、誰かにボールを当てたり、ボールを当てられないように逃げたりよけたりする。早歩きを限度に行うのは同じだ。余裕があれば、投げられたボールをキャッチし、遠くへ放ってしまってもいい。自分のボールは自分で取りにいくのがルールだ。
四方八方からボールが飛んでくることになるが、「投げることだけでなく、周囲の様子をみながら動くことも、野球の大事な要素」と勝亦教授は説明。最終的に何回当てたか・何回当たられたかを参加者全員で競争するとモチベーションが上がる。
「俺がおとりになる!」…頭脳的チームプレーも駆使できる

「ライン鬼」は、“攻撃側”と“鬼側”の2チームに分かれて行う。攻撃側は本塁から一塁へ向かって、途中2か所に待ち構えている鬼のタッチをかわしながら走る。鬼は横にのみ動くことができる。タッチされた走者は、本塁に戻ってやり直し。時間内に何人が一塁ベースに到達できるかを競う。
さらにライン鬼を、一塁→二塁、二塁→三塁、三塁→本塁へと延長したものが「ダイヤ鬼」だ。本塁からスタートして、時間内に何人がダイヤモンドを1周して戻って来られるかを競う。各塁間2か所で待ち構える鬼をかわしながら進み、タッチされたら1つ前の塁に戻ってリスタートする。
攻撃側のチームは、複数人で一斉に走り出して鬼を混乱させたり、1人がタッチされている間に別の1人が逆サイドを駆け抜けたりと、打ち合わせをしながら頭脳的なチームプレーも駆使できる。「俺がおとりになる!」と殊勝に申し出る子どももいた。

そして究極形の「投げダイヤ鬼」。ルールはほとんどダイヤ鬼と同じだが、鬼はタッチするのではなく、ボールを投げて走者に当てる。攻撃側はボールを当てられないように、よけながらダイヤモンド1周を目指すが、余裕があればボールをキャッチし、遠くへ放ってしまってもいい。
会場は子どもたちの歓声に包まれていた。確かに、楽しみながら基礎体力をつけ、複雑なステップを体に染み込ませることができそうだ。
「特定のステップしかできないのであれば、ラダー(ひも状のはしご)を使ったステップのトレーニングを行ったり、反復横跳びのようなサイドステップを繰り返したりして、多様なステップを練習することも必要です」と勝亦教授。
しかしながら、「ラダーなどで意識的にステップを練習しても、その動きを実際の試合で使えるようになるとは限りません。例えば、守備では打球に反応して無意識的にボールを捕りに行くなど、自分でどう動いているかわからないけれど、自然に動いていることが多いはずです。鬼ごっこを通して無意識的に多様なステップが出るようになってくると、野球の動きにもつながってくると思います」と指摘する。
その“無意識の動き”を磨くのに最適な練習が、鬼ごっこというわけだ。子どもの頃、ただただ無邪気に楽しんでいた鬼ごっこに、こんな重要な要素が含まれていたとは、想像もしていなかった。
【実際の動画】実は野球に優れた「鬼ごっこ」 自然にステップワークが磨かれる子どもたちに驚き
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