なぜ身長168cmで最速152キロ出せた? 異色の元右腕・長坂秀樹氏が突き詰めた“体の使い方”

公開日:2022.11.02

更新日:2024.02.14

文:間淳 / Jun Aida

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世界4か国でプレーした長坂秀樹氏 高校から投手始めて甲子園出場

 長野・東海大三(現・東海大諏訪)時代にエースとしてチームを甲子園に導き、東海大卒業後は米国やカナダなど世界4か国でプレーした長坂秀樹さんは、身長168センチながら、最速152キロの直球が武器の投手だった。現在、神奈川県藤沢市で開いている野球塾では「速い球を投げたい」と小、中学生に指導を求められている。中日・小笠原慎之介投手にもお尻の使い方などを伝授し、プロ入りを導いた。体の使い方を覚えれば、体の大きさにかかわらず球速は上がるという。

 長坂氏は、トップ選手を育成した指導者たちが練習法・指導法を紹介する、First-Pitch連動の野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」(ターニングポイント)に参加。小柄ながら150キロ超を投じ、ドラ1左腕を育て上げた数々のトレーニング方法を披露しているので、そちらも参照にしてほしい。【次ページに動画あり】

 小学生の時は内野手で中学生では捕手。長坂さんが投手を始めたのは高校に入ってからだった。体は大きくなかったが、理想の投手は「速球派」。速い球を投げる方法を追求した。自分の力で身長や骨を伸ばすことはできない。トレーニングで筋力をつけ、可動域を広げた。

 そして、一番大切にしたのが体の使い方だった。どうすれば無駄なく球に力を伝えられるのか。日米の速球派投手のフォームを研究し、最速152キロを計測するまでの投手となった。

「体の大きさにかかわらず、体を上手く使えば球は速くなります。小学生に対しては力の出し方を伝えています」。長坂さんは、多くの子どもたちが、ためた力を上手く球に伝えられていないと指摘。そこで、大きな波を例に出して説明している。

「波が加速して岩にぶつかると、上に向かって大きな力が働きます。岩がなければ砂浜へ力が流れていきます。加速して止まるものがあれば、ぶつかって力を出せるわけです」

 拍手の原理も同じだという。拍手は片方の手を止めて、もう片方の手を強くぶつけるほど大きな音が鳴る。どんなに勢いをつけても、ぶつかるところがなければ音は出せない。一方、両手で勢いをつけてぶつければ、さらに大きな音が鳴る。

「波が岩にぶつかったり、拍手で音が鳴ったりする時にエネルギーが生まれます。この力がぶつかるところを投球のリリースポイントにすると、球に最大限の力を伝えられます」

球速アップのポイントは踏み出す足とグラブの使い方

 まず、体の使い方で大事になるのは踏み出す方の足。右投手なら、左足にあたる。投手はマウンドの傾斜を利用して体の向きを動かさずに移動する「並進運動」をする。踏み出した足を上げて地面についた時、膝が曲がり、頭が捕手の方向に倒れてしまうと、力は逃げてしまう。波で言うと、岩にぶつからず砂浜の方へ流れているだけの状態となる。踏み出した足を壁の役割にして、下半身の力を上半身、さらには指先へと伝えていく。

 グラブの使い方もポイントになる。右投手の場合、投球する時にグラブをつけた左手が、左打者の背中の方向に流れてしまいがちになるという。本人は捕手の方向に真っすぐ左手を出しているつもりでも、投球には捻りの動きが入るため、体が一塁方向へ流れてしまうのだ。

 長坂さんは「ボクサーがパンチをする時、パンチをしない手は体の方に引きます。考え方は同じで、リリースする時にグラブを下向きに引きます。または、ワニの口のように右手を上の歯、左手を下の歯とイメージして、口を閉じる感じの動きです」と話す。

 体の使い方が身に付けば球速は上がる。ただ、長坂さんが身長168センチで150キロを超える直球を投げられたのは、人一倍の努力もあってこそだ。

「野球は柔道やボクシングと違い、体重制限のない無差別級のスポーツです。身長180センチ以上の投手と同じフィールドで戦います。自分には才能もセンスも身長もないと理解していたので、人より練習するようにはしていました。この体で150キロを出せたのは体の使い方と練習量が理由だと思っています」

 チーム練習で腕立て10回と言われれば、長坂さんは11回する。頭を使って無駄なく力を出す方法を模索すると同時に、同じ練習時間でライバルより数をこなす意識を持っていた。

 長坂さんは小学6年生で初めて、同級生の試合に出場した。小学5年生までは下級生のチームで補欠だったという。自身の経験から、練習のやり方や気持ち次第で可能性を広げられると知っている。だからこそ「今、上手くないから、今、試合に出られないからといって、自分は上手くなれないと諦めてほしくないんです。自分で可能性を狭めるのは、もったいないですから」と主張する。

 体の大きさは選手の特徴の一つであって、能力や可能性を決める全てではない。ライバルに差をつける知識や技術、野球への取り組み方を長坂さんは体現し、子どもたちに継承している。

【映像】中日・小笠原も中学時代に実践、長坂氏が実演する球速アップにつながる“お尻トレ”

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