グラブを「売らない」こともある 老舗メーカーが利益よりも優先する“こだわり”

プロ・アマ問わず人気のグラブ「久保田スラッガー」の信念

 究極の接客と言えるのではないだろうか。グラブに強いこだわりを持つ久保田スラッガーでは、子どもに泣かれてもグラブを売らない時がある。販売店でありながら、なぜ求められているものを売らないのか。そこには信念と矜持があった。

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「グラブを買いに来たからといって、絶対に売るわけではありません」

 表情も口調も穏やかだが、久保田スラッガー東京支店の山田佑紀さんには揺るぎない信念がある。決して、個人的な感情で来店客を選んでいるわけではない。

 商品が売れれば、店の利益は上がる。1つでも多くのグラブを売るのが仕事であり、それが自身の評価にもつながる。ただ、山田さんは子どもたちにグラブを売らない時がある。たとえ、新しいグラブを手にできなくなった子どもに泣き叫ばれたとしても。

 山田さんはグラブを買い求める子どもの体つきを見る。そして、手を見る。「うちのグラブを使えるだろうか」。80年以上の歴史を持つ久保田スラッガーは、あらゆる野球用品の中でグラブへのこだわりが特に強い。グラブの使いやすさを左右する「型付け」には、業界ナンバーワンの自負があるほどだ。だからこそ、店で扱うグラブをつけるのがまだ早い子どもには、「売らない」という選択をする。

「野球を好きでいてほしい、ずっとやってほしいというのが根底にあります。グラブが合わなくて、野球が嫌いになってしまうかもしれません。野球は捕れたり、打てたりするのが楽しい。その感情を大事にしたいんです」

 山田さんがグラブを売らないのは、子どもたちを考えているからこそ。手の大きさに合わないグラブを販売すれば、野球の楽しさを知る前に辞めてしまうかもしれない。納得のいかない子どもたちには、グラブをはめさせて指がどこまで届いているかを聞く。グラブをつけた手を下げさせて「落ちてしまいそうだよね。まだ少し大きいから、このグラブだとボールが捕れないよ」とゆっくり語りかける。時には、両親に他の店のグラブを勧める時もある。そして、「大きくなったら、また来てね」と子どもを送り出す。

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