良い選手の条件は「監督の駒」 大阪桐蔭OB力説…方針とのズレ「自己満足でしかない」

文:高橋幸司 / Koji Takahashi

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甲子園出場2回、野球スクール運営の生島峰至氏…野球の理論に「不正解はない」

 近年は野球塾や野球スクールが増え、スキルアップを目指す選手たちが所属チーム以外の場所で指導を受ける機会も増えている。しかし、その分聞かれるようになったのが、チームとスクールとの指導内容の“食い違い”だ。時には相手への批判につながることもあるが、大阪桐蔭高で2度甲子園に出場し、現在は大阪、名古屋、四日市を拠点に「BT野球スクール」を運営する生島峰至(いくしま・たかし)さんは、「オーダー表に名前を書くのは、あくまでチームの監督」と信念を語る。

 大阪桐蔭高では中田翔内野手(現中日)らと甲子園で活躍し、同志社大では関西学生リーグ4連覇、社会人・西濃運輸でも都市対抗野球優勝とアマ球界の第一線を歩んできた生島さんは、現役引退後の2020年に「BT野球スクール」を設立。ベースボールアドバイザーとして、小・中学生の指導に精力的に当たっている。

 野球界には様々な理論が存在し、指導者それぞれにも考え方がある。しかし生島さんは「『正解がない』のではなく『不正解がない』と考えています。結果的に行き着く所は同じ。比べる必要も、批判する必要もない。要は選手自身が『これだ』と納得できることが大事です」と語る。

 例えば打撃では昨今、フライを上げた方がヒットの確率が上がるという「フライボール革命」が主流で、バットを縦に使うスイングがトレンドだ。そこでチームの監督から「もっと上から叩け」と言われ、選手が相談してきたらどうだろう。スクール側が監督を真っ向から批判してしまうと、板挟みになり、戸惑うのは選手自身だ。

「監督の言葉をそのまま受け取って批判するのではなく、そう言われた理由を選手と一緒に考えていくことが大事だと思います。『上から叩け』にどんな意図が込められているのか。例えば、最近は打席でどんな打球が多かったかとか、必要以上にバットが下がっていなかったか、とか。いろんな視点から見て、選手が納得できるようにサポートするのが大事だと考えます」

高校通算33本塁打も…監督からは「お前はそういう打者ではない」

ベースボールアドバイザーの生島氏【写真:伊藤賢汰】

 生島さんは、あくまでオーダー表に名前を書くのはチームの監督であり、試合でタクトを握るのも監督だと考える。良い選手とはどんな選手かと問われたら、「試合に出られる選手、誤解を恐れずに言えば“監督の駒になれる選手”と答えます」と言う。スクールに来て技術が向上しても、監督の意図するものとズレが生じ、試合に出られないのでは元も子もない。

 その信念の背景には、自身の高校時代の経験がある。高2夏は控えとして、高3春は「6番・中堅」のレギュラーとして甲子園に出場。本塁打も高校通算33本をマークしているが、「お前はそういう(長打を狙う)バッターではない、と西谷(浩一)先生からはずっと言われてきました」と振り返る。

 確かに、4番には中田、5番には堀拓真(のち明大)と強打者はそろっていた。そこで生島さんは、逆方向に強い打球を打つ、バントや進塁打を確実に決めるなど、監督の指示通りに100%動ける選手を目指した。野球は団体スポーツ。自分の立ち位置を考えてプレーできる選手が試合で起用されるし、監督の方針の上に、選手の自主性や考える力が加わることで強いチームになる。

「大阪桐蔭は、まさにそういうチームの好例でした。私が30歳近くまで現役を続けられたのは、西谷先生の指導があったおかげです」

 逆に、長く野球をしてきた中で、才能があるのに試合に出られない選手も目にしてきた。生島さんが、SNSやスクールのホームページに「野球原石のモッタイナイをなくす」という言葉を掲げる理由にも、それがある。「監督が『もう少し守備がうまくなってくれれば』と考えているのに、本人がホームランを打つ練習ばかりしていては、どれだけ努力しても自己満足でしかありません」。

 監督・選手の考えをすり合わせ、ズレをなくすためにも、客観的にアドバイスできるスクール指導者の存在価値がある。原石を石のままにせず、光り輝かせるために、生島さんはこれからも子どもたちをサポートしていく。

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