脱・丸刈りか否か、部員投票の“意外な結果” 2時間の議論…監督が施した「種まき」

公開日:2024.04.12

文:高橋幸司 / Koji Takahashi

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2022年夏神奈川4強…立花学園の指揮官が目指すは「伸びしろの最大化」

 高校野球の激戦区・神奈川県において、2022年夏の選手権では県4強、2023年春には県8強に進出と、近年、着実に上位候補として名をあげているのが、県西部の松田町にある私立・立花学園高校だ。この4月で就任8年目を迎える志賀正啓監督は、様々なアイデアで選手の“考える力”を養い、「伸びしろを最大化させる」をテーマに指導をしている。注目校の指揮官に、指導論を聞いた。

 立花学園は新1年生を迎え、現在は120人を超える部員数を誇る。多くは県内から通うが、愛知や関西方面から入学し、寮生活を送る選手もいる。志賀監督は旧態依然としたトップダウン指導ではなく、データ活用などで選手の主体性を育むことを重視。そうした方針とともに、「頭髪自由にしているのも大きいかもしれませんね」と語る。昨夏、全国制覇を果たした慶応が“脱・丸刈り”で話題となったが、県内はいまだに丸刈りルールの高校が多い。

 頭髪自由も、生徒たちが話し合い、投票で決めた。コロナ禍直前のことだ。話し合いは約2時間に及んだが、その前に指揮官は“種まき”をしたという。

「神奈川大会の決勝の会場は、秋は(サーティーフォー)保土ヶ谷球場、春夏は横浜スタジアムと、常に県の“東側”。そして、スタンドには熱心なオールドファンも多い。その中で、立花学園という“ポッと出”の学校が西側から進出してきた時、『長髪で生意気だな』と思われ、相手チームに応援が流れてしまうかもしれない。そうしたことを超越して勝てるくらいの実力を身に付ける覚悟も必要だよ、という話をしました」

 そうしたことも踏まえた議論の末、投票結果は満場一致で“脱・丸刈り”……かと思いきや、そうでもない。わずか8票の僅差だったという。「面白かったのは、マネジャー全員が丸刈りを支持したことですね(笑)」。令和の時代にも、短い頭髪に“高校野球らしさ”を感じる生徒はいるということだろう。学校も「生徒が決めたならば」と快諾し、丸刈りも含めた頭髪自由が決定した。

 グラウンド内だけでなく、球場の応援にまで目を配る監督の視野の広さが興味深い。「ウチは応援も独特で、学校に近い足柄山にちなんだ『金太郎』もそうだし、(ドヴォルザークの)『新世界より』も結構早くから取り入れているんです。1つの要素に対して、いろんなことが複合的に絡んでくるのが野球です。スタンドの応援から立花学園を知り、『球場に行ってみようか』という方が1人でも増えてくれれば、ウチにとっては“戦力”になります」。

SNS活用にはリスク潜むも…「使い方が適切なら有用な道具になる」

大所帯の部員を前に話をする立花学園の志賀正啓監督【写真:伊藤賢汰】

“戦力獲得”の方策は他にもある。昨年5月からは、選手たちが率先して週1回の地域清掃を行っている。練習試合で強さを実感した仙台育英(宮城)が、ゴミ拾いや雪かきを行っていると聞き、「自分たちも地域に愛されるチームになろう」と選手たち自身で始めた。「最近では地域の皆さんも挨拶を返してくださいますし、知名度も上がってきているように感じます」と主将の小長谷琉偉(こながや・るい)内野手(3年)は手応えを語る。

 また、SNS活用も他校に先駆けて導入してきた。X(旧ツイッター)を2019年1月に開始。野球部の存在を広めるのはもちろん、ネットリテラシー教育の必要性を指揮官が感じたこともある。

「当時は“バイトテロ”などのSNSにまつわる事件が国内を騒がせていましたが、逆にチームとして積極的に発信することで、選手たちに『常に見られている』という意識が芽生えるのではないかと考えました。刃物と一緒で、使い方がわからないから人を傷つけてしまうのであって、使い方が適切であれば有用な“道具”になると思うんです」

プレー面でも裏方的な仕事でも高校野球の持つ側面は多い【写真:伊藤賢汰】

 高校時代にSNS運用に関わった経験があれば、将来仕事でSNSマーケティングを託されるかもしれない。データ活用についても、選手5人とマネジャーとで「研究班」を設けているが、数字に強くなれば未来の仕事にも活かせる。「『生徒の伸びしろを最大化させる』が私の考えるテーマの1つ。この部活動が、大人の社会の縮図だったらいいなと考えています」。

 生徒たちが成長できる余地は、プレー面以外にもある。「グラウンドで泥だらけになるのも“高校野球”だし、裏方的な仕事をするのも“高校野球”だと思います。実力的にレギュラーになれなかったとしても、3年間で“高校野球”をやり切ったと感じてもらいたい」と志賀監督。

 立花学園高校野球部は、ホームページで「高校野球界で『革命』を起こしませんか?」と問いかける。単なる勝敗だけではない、卒業後の人生も見据えた3年間。部活動がもつ可能性は、まだたくさんある。

■First-Pitchと連動する野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」でも、志賀監督のインタビューを公開しています。

https://tp-bb.jp/announce/370

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