練習体験で泣き出した子ども「サインがない」 行動力引き出す“自由以前”の習慣

文:間淳 / Jun Aida

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多賀少年野球クラブの辻正人監督…思考は行動の予行演習「100考えて10動く」

 選手の主体性を伸ばすには、指導者の忍耐強さが求められる。「世界一楽しく! 世界一強く!」を掲げて全国制覇を成し遂げた滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督は、主体性を育てるポイントに「大人が子どもを信頼してじっと待つ姿勢」を挙げる。選手が最初の行動を起こすきっかけづくりも大切にしている。

 辻監督は2月29日、野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」のオンラインイベント「主体性が育つ組織づくり」に出演した。その中で、エピソードを1つ披露した。辻監督はチームの練習体験に来た小学6年生の選手に「多賀は自分たちで考えて自由にやってよいから」と声をかけ、遠くで見守っていたという。すると、その選手が泣き出した。理由を聞くと「サインがないと何をしてよいか分かりません」と答えた。

 多賀少年野球クラブの6年生は、選手間のサインやアイコンタクトで試合を進める。練習中も課題が見つかれば選手同士で話し合い、練習メニューも個々でテーマを持って取り組んでいる。主体性が当たり前のように浸透しているが、一般的なチームは監督やコーチのサインで作戦を実行し、選手は指示を受けて練習をこなす。辻監督は「自由にしなさいと言われても、戸惑ってしまう子どもは多い」と指摘する。

 辻監督は長年、野球の戦術や戦略を選手に伝授する座学を続けている。チームに入ったばかりの園児や小学校低学年にも、状況に応じた打撃、守備、走塁を教えている。座学を繰り返し、日頃の練習でも頭を使ってプレーする大切さを伝えることで、選手たちは考える習慣が身に付いていく。辻監督が語る。

「思考は行動の予行演習です。行動しろと言われても、すぐにはできません。それ以上に頭の中でいろんな行動を(イメージ)しないと、動けません。考えていることが100ある子どもが10の行動力になります。10考えて1の行動。1しか考えていないと行動に移せません。頭の中で想像することが大切です」

「選手が何をしても認める」…指導者に問われる忍耐力

 一定のルールを設けて、その中に自由を与えることで考えるきっかけをつくるケースもある。例えば、辻監督は5分間の打撃練習を数セット繰り返すメニューを組むが、5分の使い方は選手に任せている。経験の浅い選手はひたすらフルスイングする一方、高学年は逆方向に打ったり、バント練習を入れたりする。

 指導者は打撃練習の場をつくるだけで、あとは選手が個々のテーマと向き合う。枠組みのある自由が、主体性や考える力の育成につながっている。そして、選手の主体性を伸ばすために最も大事にしているのは、「じっと待つ姿勢」。選手のどんなプレーも受け入れることで、積極性や主体性が育まれるという。

「指導者に『自由にしなさい』と言われて行動した結果、子どもたちがミスしたらベンチで命令、指示してしまう指導者がいます。自由には責任が伴うと子どもたちも実感しています。子どもたちが何をしても認める姿勢を、グラウンドの中で続けられるかを一番にしています」

 高学年の練習試合では相手チームの承諾を得て、ベンチに指導者が入らない時もある。辻監督は試合後、選手たちに「何か分からなかったことはあった?」「話がまとまらなかったことはあった?」などと質問。すると、選手たちから“逆質問”が出てくる。

 ベンチに入って、その場で指示や助言をした方が効率良く見える。しかし、中・長期的な視野で見れば、主体性や積極性を伸ばした方が選手は成長する。選手が考えて行動する力を身に付けるには、指導者にじっと待つ忍耐力が求められる。

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