少年野球で部員を増やすには? 多賀少年野球クラブ、保護者に“3つの約束”で100人超え
滋賀県の学童野球チーム「多賀少年野球クラブ」は、日本一に3度輝いた全国大会の常連です。また、園児から小学6年生まで100人以上の部員が在籍していることで知られています。
チームの創設者で、監督を務める辻正人氏が、保護者に“3つの約束”を誓ったことがきっかけで部員が急増。これまでの野球界の常識を覆した指導法を紹介します。
目次
専門家プロフィール
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○辻正人(つじ・まさと)1968年1月25日、滋賀県多賀町出身、野球指導者。中学から本格的に野球を始め、近江高では野球部に所属し三塁手として活躍。20歳の時、現在も監督を務める「多賀少年野球クラブ」を創設。2022年で指導歴34年を迎え、少年野球の2大大会である「マクドナルド・トーナメント」と「全国スポーツ少年団軟式野球交流大会」で計3度の日本一へ導く。チームOBには、則本昂大(楽天)をはじめ、20人を超える甲子園球児がいる。「世界一楽しく、世界一強く」をモットーにした、勝利と育成の両輪を回す指導に、日本中の少年野球関係者から注目を集めている。First-Pitchと連動している野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT(ターニングポイント)」でも、育成年代の野球指導に向けたトレーニング方法や理論を解説。
1.多賀少年野球クラブとは?
楽しみながら上手くなる指導方針を掲げる多賀少年野球クラブは、10年ほど前まで毎年、部員が25人前後でした。しかし、怒声や罵声を禁止する指導に転換してから入部希望者が増え始め、5年ほど前から一気に増加しています。
1-1 少年野球での功績
滋賀県多賀町で活動し、今年で35年目。楽天の則本昂大投手や多数の甲子園球児を輩出し、2018年から2年連続で高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会「マクドナルド・トーナメント」を制すなど、日本一に3度輝いている強豪チームです。
1-2 辻正人監督の指導方針
強豪チームといえば、「大きな声を上げる指導」や「長時間の練習」などのイメージがありますが、多賀少年野球クラブは“常識”とはかけ離れた指導方針を取っています。
①怒声・罵声は一切禁止
指導者と保護者は、怒声や罵声をあげることは一切禁止。とにかく子どもが楽しく野球をやれる環境づくりに努めています。スパルタのような指導を2017年に全面的に禁止した結果、翌2018年から2年連続で全国制覇を成し遂げています。
②長くない練習時間
全体練習は土日祝日に行われ、小学1年生までと初心者は午前中の2〜3時間、2、3年は午後3時まで、4年生以上は午後5時までが基本となっています。平日の練習は、火曜と木曜にありますが「自由参加」。週6日練習するチームも珍しくない中、休みの大切さを唱えています。
2.多賀少年野球クラブの練習方法
辻監督が最も時間を割くのが、幼児と初心者への指導です。小学5、6年生にもなると自分たちで考えて練習できます。野球の楽しさを知った子どもたちは、驚くようなスピードで成長していくといいます。だからこそ、初めが肝心。強さの理由は、初心者の指導方法にあります。
2-1 投げ方指導
「投げ方」は、経験や年齢を重ねると修正が難しくなります。少年野球のうちに無駄なく最大限の力が伝わる理想のフォームを身に付けることが重要だと、辻監督はいいます。野球を始めたばかりの子どもに多いのが、体を回転させずに肘から先だけを使う投げ方。これでは、ボールに力が伝わりません。
ポイントの1つに挙げるのは「利き腕と逆の肩」です。右投げの場合は「左肩」。もう1つ大事なのは「利き腕の肘」。腕を地面と平行に真っすぐ伸ばした位置、肩と真っすぐのラインで右肘を直角に曲げるのが理想です。
2-2 打ち方指導
野球を始めたばかりの子どもたちはバットにボールが当たらず、ストレスを感じてしまいます。辻監督も「なかなかバットに当たらないのは普通のことです。動いているボールを打ち返すのは簡単ではありません」と言います。
推奨しているのは、バットを振ったら、もとに振り戻す“両振り”の動き。均一なスイング軌道が生まれ、バットにボールが当たるようになるといいます。
2-3 走り方指導
辻監督は、「1死三塁」の状況をつくる意識をチームに浸透させています。スクイズや内野ゴロで1点を取れる場面をゴールに定め、選手たちは指揮官のサインなしに戦術を考えています。
プレーの目的や根拠が理解できるようになった選手は、さまざまな応用が効くようになり、ベストな選択を導き出せるのです。走塁の判断基準が明確になることで、監督にとっては感情的な指導を減らす効果もあるといいます。
3.多賀少年野球クラブが部員を急増させた”3つの約束”
辻監督が指導法を改めるきっかけになったのは、保護者に無記名でアンケートを取った時でした。その中に、胸に突き刺さる内容がありました。「試合中は笑顔で子どもたちと接していますが、練習からもっと楽しくできないのですか」。この言葉を受け、辻監督は保護者を集めて3つの約束を打ち出しました。
3-1.「選手にストレスを与えずに元気にする」
指導に熱が入り、ついつい大きな声に。辻監督は「いくら指導でも大きな声を出せば、子どもたちには圧力になってしまいます」と振り返ります。考えを変え、喜ぶ練習を実践。いいプレーはもちろん、フルスイングや全力疾走など選手たちの小さな努力や成長にも目を配り、拍手をして褒めるように心掛けました。すると子どもたちの表情や野球に取り組む姿勢が変化していったといいます。
3-2.「保護者も元気にする」
ストレスなくプレーする子どもたちは、自然と笑顔になり、積極的に練習するように。その姿を見た保護者も一緒に笑顔になり、親子で楽しむ姿が見られるようになりました。
3-3.「指導者も元気になる」
楽しそうな親子と向き合い、今度は指導者が元気をもらう好循環が生まれたといいます。チームを見る周りの目も明らかに変化し、大会出場時に審判や役員からも「多賀少年野球クラブは変わった」と言われるようになったそうです。
少年野球チームを強くしたいけど、なかなか部員が増えない……。そんな悩みを抱える指導者は少なくありません。ただ全国には、子どもや保護者の支持を集め、100人以上のメンバーを抱える大所帯も。多くの監督や球界関係者から注目を集めているのが、滋賀県の「多賀少年野球クラブ」です。
園児から小学6年生まで100人以上が所属。日本一に3度輝いた全国大会の常連です。チームの創設者で、現在も監督を務める辻正人氏が、保護者に“3つの約束”を誓ったことがきっかけで部員が急増。「怒声罵声は一切禁止」など、これまでの野球界の常識を覆した指導法を紹介します。すぐに自チームで実践できる学びが詰まっています。
4.多賀少年野球クラブが“保護者コーチ”を採用しない理由
ボランティアが基本の少年野球の指導は、保護者の協力が大きな力となります。しかし、多賀少年野球クラブでは保護者が選手を教える「パパコーチ」を廃止。これには2つの理由があります。
4-1.我が子を特別扱いする危険性
大きな理由の1つは、自分の子どもを特別扱いする監督やコーチです。実力に関係なく主力で試合に出場させる分かりやすい“優遇”もあれば、他の選手と比べて指導が厳し過ぎる場合もあります。辻監督は「気を付けようと思っても、自分の子どもがチームにいたら他の選手との扱いは変わってしまいます」と語っています。
4-2.監督やコーチの継続在籍が不可欠
辻監督は、指導者が継続して在籍することで、チーム力が上がっていくと考えています。そのため、多賀少年野球クラブには近江高校野球部時代の辻監督の後輩や公募による有志、子どもがチームを卒団した保護者らにコーチやマネージャーとしてのサポートをお願いしています。
5.多賀少年野球クラブのまとめ
辻監督の指導方針や部員急増の理由、強さの秘訣は、真似できない部分もあれば、すぐに取り入れることができる部分もあります。指導に携わるチームが少しでもレベルアップするためにも、ぜひ参考にできる部分から実践してみてください。
辻監督も賛同・出演している野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT(ターニングポイント)」では、最先端の理論などをもとにした練習ドリルやトレーニングメニューが公開されています。無料で250本以上の動画が見放題。野球指導の“サポート”をしてくれます。
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